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今回のテーマは「本人・家族の思い VS 医師の見解過【人工栄養のメリット・デメリット】」について、食事や摂食嚥下を中心に深掘りしていきます。
目次
本人・家族の思い VS 医師の見解過【人工栄養のメリット・デメリット】
高齢者において摂食・嚥下障害が認められた場合、多くは人工的水分栄養補給法 (artificial hydration and nutrition: AHN) をどうするかについて本人・家族に説明する必要がありますが、その前段階で「本人・家族の思い VS 医師の見解」について確認する必要があります。
本人・家族の思い
かかりつけ医などでアドバンス・ケアプランニング (advance care planning: ACP ) を進めている場合はそれを確認しますが、 人工栄養:artificial hydration and nutrition(AHN) の詳細まで話し合われているケースは少ないです。
参考:
>>高齢者の人工栄養の話し合い
本人の意思確認が可能な場合は本人の考えを聞き、意思確認が難しい場合は家族などの代理決定者に本人の意向を推察してもらう必要があります。
「以前から胃ろうなどの延命処置は希望していませんでした」
などの情報があるとAHNの説明の際に参考になる事が多いです。
医師の見解
そもそもAHNが本人にとって医学的メリットがあるかを事前に検討しておく必要があります。
摂食・嚥下障害の他に、癌など別の予後決定因子があり、AHNを導入しても予後が限られている場合はAHNのメリットは少なです。
また胃ろう、中心静脈栄養などの造設自体が身体的に可能か、自己抜去などの維持困難となるリスクがないか事前に多職種と検討しておくことが望ましいです。
療養先問題
AHNとは別に、本人にとって大きなQOLの決定因子が終末期の療養場所であり、療養先によって行えるAHNが異なることに留意する必要があります。
たとえば自宅での療養を希望した場合
- 栄養手技を家族が行えるかどうか
- 胃ろうを行わない場合連日の訪問看護は難しい
- 点滴をどうするか
などの検討も必要になります。
上記3点を事前に確認検討したうえで、AHNの説明があるとより本人、家族とってわかりやすい説明になります。
AHNのメリット・デメリット
ではAHNのメリット・デメリットを説明するうえで知っておいてほしいポイントはどこでしょうか?
胃ろう
メリット
胃ろうのメリットは消化管を使った栄養投与が行えることであり、 栄養学的にも免疫的にも第一に検討されるAHNです。
経鼻胃管と比較して長期使用であれば合併症も少なく、本人への負担も軽い。
デメリット
胃ろう造設の手技自体による短期的な合併症の多くは胃ろうキットの抜去や、感染栄養の漏出などマイナーなトラブルが多く、胃ろう造設自体の死亡報告はほんどなかったり、また認知症などで胃ろう造設時に鎮静が必要になる場合もあります。
鎮静による死亡率の上昇は指摘されていませんが、リスクについては個別性が高く事前に説明は必要です。
一方長期の生存率については海外と日本でエビデンスが異なり、認知症においては海外では胃ろうの生存期間延長のエビデンスありませんが、日本では生存期間延長の傾向が見られています。
日本の研究では80歳代中盤で摂食・嚥下障害以外の問題がない場合は、平均余命が2年程度の結果が多いです。
経鼻胃管
メリット
栄養的なメリットに関しては胃ろうと同様です。
胃ろうと比較して外科的処置が不要でありすぐに行えること、経口摂取ができるようになればすぐにやめられることがメリットです。
デメリット
合併症としては胃から胃液や内容物の逆流が増えるため、食道炎や誤嚥性肺炎のリスクが上昇することが知られています。
また長期使用で鼻腔内の潰瘍や壊死のリスクも上昇します。
また患者側も不快感が強く、認知症高齢者ではせん妄や自己抜去による損傷のリスクもあります。
経鼻胃管の長期予後に関する研究は少ないが、日本の認知症患者を対象とした研究で2年程度であったとの報告があります。
しかしこの研究は平均年齢が76歳と若く、実際には合併症のリスクも高いので、1~2年程度と考える場合が多いです。
中心静脈栄養 (central venous catheter CV)
メリット
胃摘出後などで解剖学的に胃ろうを造設できない場合や経鼻胃管の留置が難しい場合に選択されます。
造設自体は比較的簡易的な手術で造設でき、胃ろうと違って内視鏡を使用しないため本人への苦痛は少なく心理的なハードルも低いのが特徴です。
デメリット
高カロリー輸液の投与には少なくとも半日程度の時間が必要であり、癌などの訪問看護が医療保険で入れる疾患がない場合在宅での継続は難しく、療養先が病院に限定されてしまう事もあります。
長期使用の合併症としてはCVポートの場合でもカテーテル感染が3.2%、カテーテル血栓症は2.5%との報告があり、決して無視できない確率で発生しまう。
また、長期予後についても日本の研究で平均余命が196日だったという報告もあり、末梢輸液 (平均60日) に比べると長い傾向はあるものの、統計的な有意差は示されていない。
末梢皮下点滴
メリット
胃ろうやCVと比較して侵襲が少ないため本人への負担が軽減できる。
また家族・ 介護者の 「何かしてあげたい」 という思いに応えることができる。
デメリット
予後は経管栄養やCVに比べると平均60日程度と短い” 終末期の輸液”自体に関しては喀痰の増量や浮腫などの問題があり1日1,000mLを超える輸液は推奨されて ていません。
また在宅で投与する際には癌などの病名がないと連日の訪問看護は導入難しいので、投与頻度が下がってしまうことも説明が必要です。
AHNなし
メリット
AHNを行わない場合、経管栄養や点滴などによる水分負荷もなく浮腫の問題などが生じにくいため、本人にとっては負担が軽くなります。
デメリット
家族介護者にとっては 「何もしない」 という選択をすることに心理的な抵抗感がある場合が多いです。
予後に関する研究はあまりないですが、おおよそ1ヵ月以内のことが多いと思われます。